即解・バットディテクター NEW 2009.5.31 【4】にMEMSマイクを加筆、2012.11月 ピエゾマイクの項を修正
バットディテクター即解(はやわかり)のページです。
Bat detector (バットディテクターはコウモリの出す超音波を人の耳で聞こえる可聴音に変換する装置です。
ベテランのバットウオッチャ-の間では山コウモリ等の低い声のコウモリの調査には**社のバットディテクターが良いと云う声が良く聞かれます。
当サイトでは老舗の複数のバットディテクターと、実際に製作した各方式のバットディテクターの特性を検証しました。
測定(調査)には自作のバットディテクター調整用超音波発生器(周波数可変型)、BDチェッカー(40kHzFM変調型)等を使用しました。
アブラコウモリでの感度測定は専用屋外試験場(下記【6】項)で行いました。
以下のバットディテクターの解説で、手頃な価格で買える”オールマイティーなバットディテクター”は存在しないことが解ります。
(説明を解り易くするためポピュラーな市販機種名も例として挙げています。)
ディテクトしたいコウモリの種類や場所に合わせてバットディテクターを使い分けることの重要性が理解できます。
方式によって大きく違うディテクトされた声(音)のサンプルも確認できます。
なお、図表の内容は説明を解り易くするために単純化されたり誇張してある場合があります。
詳細はメーカー発表の資料でご確認願います。
【1】バットディテクターの方式
バットディテクターの方式(種類)は次の3方式に分類されているようです。
ヘテロダイン方式(Heterodyne)
周波数分周方式(frequency division)
デジタル(A/D変換)記録方式(time expansion)
(1−1)ヘテロダイン方式(Heterodyne)
超音波信号にローカルオシレターの信号を混合して周波数変換して可聴音にします。
MIni-3もピーターソンのヘテロダイン方式も仕様書にはどちらもヘテロダイン方式と記されていますが、
両者は回路的にもディテクト特性もカタログ仕様では判らない大きな違いがあります。
ここでは一般的にヘテロダイン方式と呼ばれるものを次のように更に2つの方式に分類して説明をします。
(1−1a)ヘテロダイン方式(super-heterodyne *1)=> 代表的な機種名:MIni-3
回路の特長:超音波を第1のローカルオシレターと混合して一旦455kHzの中間周波数に変換して増幅。
中間周波数に第2のローカルオシレターを混合して可聴音に変換します。
中間周波増幅回路で安定した高ゲイン回路が実現できます。
周波数変換を2回行うので、無線機的な分類によればダブルスーパーにやや近い。
可聴音よりも高い周波数の中間周波数が存在するので下記と区別して(super-heterodyne
*1)と記します。
当サイトのラジオやラジカセをBD化している物も(super-heterodyne)方式です。
(*1) 他に区別をされる方を知らないので”(He-pure)と仮称しましたが、無線機の方式にならった方が、
一般的な呼び方かと考え(super-heterodyne *1)と呼ぶ事にしました。
(1−1b)ヘテロダイン方式(He-DC)=> 代表的な機種名:ピーターソン社のヘテロダイン方式BD
回路の特長:超音波信号とほぼ同じ周波数(*2)のローカルオシレターと混合して可聴音に変換する。
無線機的な分類によればダイレクトコンバージョン(DC)に近い。
上記と区別する意味でHe-DCと記します。
一般的に単一周波数を多段増幅して高ゲインを得るのは困難です。
趣味でBDを製作してwebにレポートされているものはほとんどこの方式です。
一部のアマチュア無線の方ははっきりとDC方式と呼んでおられます。
(*1) 数100Hz〜4kHzの差
(1−2)周波数分周方式(frequency division)
回路の特長:超音波を増幅して2値化した後、分周回路で周波数を分周して可聴音にします。
安価であり、周波数調整の必要が無いので取り扱いが簡便です。
反面、感度が低いこと、周囲雑音の影響を受け易い、声の特長が出難い弱点があります。
(1−3)デジタル(A/D変換)記録方式(time expansion)
回路の特長:書き込み(録音)時は超音波をAD変換してメモリーに書き込みます。
読み出す時は書き込み時の1/10程度の速度で読み出すことで可聴音に変換します。
高価になりますが全ての情報を取り込んでいるのでソノグラム解析をする時に必要な方式です。
【2】バットディテクターの方式による感度の違い(検知周波数範囲と感度特性)
ほとんどの場合ヘテロダイン方式、周波数分周式とも高い周波数になるほど感度が低くなります。
これは主に使用されている超音波センサーの感度が周波数が高くなるほど低くなっていることによります(*【5】を参照)。
大まかな実用感度は以下のようになります。
ヘテロダイン方式 > デジタル(A/D変換)記録方式(time expansion) >周波数分周方式
デジタル(A/D変換)記録方式(time expansion)のプリアンプは、ヘテロダイン方式(DC)近い増幅回路となります。
しかしノイズもいっしょに記録するので、ほぼヘテロダイン方式(DC)とFD式の中間に近い感度特性になります。
メーカーの仕様書には書かれていないようですがほとんどのヘテロダイン方式では検知周波数範囲内でも大きく感度差があります。
ヘテロダイン方式(He-pure)は中間周波数を増幅する高ゲイン回路とAGC作用で30kHz以上の周波数でも感度が(He-DC)よりも高い場合が多いようです。
反面、低い周波数では変換後の周波数が中間周波数に近づくので回路内のFBによる発振が出やすくなり(He-DC)に比し高ゲインが困難になる傾向があります。
もう少し詳しく見てディテクト周波数の違いで比較すると次の図のようになっています(各方式の感度差は示していません)。
30kHz以下の周波数では
ヘテロダイン方式(He-DC)> ヘテロダイン方式(He-pure)> 周波数分周方式
30kHz以上の周波数では
ヘテロダイン方式(He-pure)> ヘテロダイン方式(He-DC)> 周波数分周方式
図ではヘテロダイン方式(He-pure)を”AMラジオ式と表示してあります。
方式による感度の違い(アブラコウモリでの例)
ほとんどのヘテロダイン方式は30m以上までディテクトします。
周波数分周式は10m〜15m位となります。
FD方式(周波数分周方式)は周波数チューニングを必要としない方式です。
取り扱いが簡便な反面次のような弱点をもっています。
ヘテロダイン方式の1/2〜1/3程度の感度しか得られません。
過度にアンプのゲインを高くしてもノイズの増大や発振を起こします。
ディテクトする帯域が広いので周囲雑音の影響を受け易い。
【3】方式により音色が違う
声の特徴が良くわかるのはヘテロダイン式とデジタル(A/D変換)記録方式(time
expansion)です。
周波数分周式はクリック音の連続音となるので声の特長は良く解からないし、強弱もありません。
ヘテロダイン式のサンプル音(アブラコウモリ)
ヘテロダイン式のサンプル音(アブラコウモリと秋の虫) 20kHzにチューニングするので虫の声は入らない。
ヘテロダイン式のサンプル音(山コウモリ)
周波数分周式のサンプル音(アブラコウモリ)
周波数分周式のサンプル音(アブラコウモリと秋の虫)
チューニング出来ないので虫の声がコウモリの声をマスキングするのでアブラコウモリの声はディテクトできない。
【4】バットディテクターの特性の80%は超音波センサー(マイク)で決まる
ピエゾ型マイク
電子部品のお店で購入できるピエゾ型センサーはほとんど40kHzしかディテクトできません。
以前はピエゾ型センサーは40kHz以外のものも製造されていますが現在は入手できないようです。
エレクトレット型マイク及びコンデンサー型マイク
もともとオーディを用に作られたマイクなので周波数が(19kHz〜20kHz)より高くなると感度は激減します。
しかし一部のものは可聴音の上100kHz以上まで僅かに感度が残っているものがあります。
このためどの方式のバットディテクターでも高い周波数になるほど感度が低くなります。
仕様にエレクトレット型マイクでているBDの多くはこのような特性になっているものと思われます。
一部のBDにはコンデンサー型マイクを使用しているものもあるようですがかなり高価になります。
しかし老舗のバットディテクターの仕様にも30kHz以下と30kHz以上では感度に大きな違いがあることは明示されていません。
老舗のバットディテクターのいくつかは外見上同じ型のマイクを使用しているものと推察されます。
でもこの辺りの詳細は企業秘密?かも知れません。
当サイトでもバットディテクターの使用に耐えるマイクを探し出すのに2シーズンを要しました。
MEMS型マイク
近年シリコンマイクの兄貴分のようなマイクが超音波センサーとして発売されました。
10kHZ〜65kHzまでのレスポンスカーブがメーカーの仕様書で確認できます。
試用感としては30kHz〜65kHzまでは上記ELマイク(1a)よりも高感度になっています。
80KHz以上のあたりから上ではEL型(1a)の方がS/Nが良いように感じます。
フィールドでの使用には影響が少ないかと思われますが、室内でのテストではPC等からの電磁ノイズの影響を受け易いように感じます。
余談
数十万円以上出すとすばらしい特性のマイクがあるようですがチョット手が出せません。
(高価ですが、なんと音声帯域から80kHz(100kHz)以上までほぼフラットな特性が保証されています。)
どなたか、こんなマイクを使用したBDの製作をさせていただける方見えませんか?。(独り言です。)
【5】バットディテクターの機種選定のポイント
1台のBDを全ての目的に使用することには無理があります。
バットディテクターも場所と目的によって使い分けることが必要です。
高感度を目的とする時
20kHz帯の低い周波数の声のコウモリ : ヘテロダイン方式(He-DC)
60kHz以上の高い周波数の声のコウモリ : ヘテロダイン方式(He-pure)
至近距離で広い範囲の周波数帯を目的とする時 : 周波数分周式
声の特徴は必要なくコウモリが居るか居ないかが解かれば良い時。
秋の虫が鳴く場所では虫の声にマスキングされコウモリのディテクトはほとんど不可能となります。
コウモリ以外に超音波を出す環境では周囲雑音をデティクトしてコウモリのディテクトはほとんど不可能となります。
声の特徴が必要な時 : time
expansion式、ヘテロダイン方式
ヘテロダイン方式はチューニング操作でディテクト周波数の帯域のみを増幅するので周囲雑音の影響はほとんど受けません。
time expansion式はチューニング操作が無く広い範囲の周波数をメモリーするので周囲雑音の多いところでの使用に向きません。
FD式と違いノイズレベルによっては声の特長を聞き分けることは可能です。
ソノグラム解析する時 : time
expansion
time expansion式はチューニング操作が無く広い範囲の周波数をメモリーするので周囲雑音の多いところでの解析には注意が必要です。
【6】参考:バットディテクターで何m先のコウモリがディテクトできるか?
ほとんどのメーカーのカタログには実感できる感度の表記がありません。
当サイトではデティクトできる距離の目安をアブラコウモリの例で記しています。
ヘテロダイン式 :25m 〜 40m (機種と個体差により差があります。)
周波数分周式 :10m 〜 15m (機種と個体差により差があります。)
注)他の種類のコウモリではデティクトできる距離が変わります。
一般的には高い周波数のコウモリのデティクトできる距離は更に短くなります。
これには以下のような理由が考えられます。
マイクの特性による。
高い声で鳴くコウモリの声が小さいのかも知れません。
高い音波ほど減衰量が高いのかも知れません。
参考:かっちゃんのバットディテクターの感度測定方法(専用屋外試験場)
2008年夏までは自宅横はアブラコウモリが餌場に向かう通路になっており専用の屋外試験場(?)となっていました。
シーズン中は日没直後に直進してくるコウモリを目視しながらバットディテクター感度測定が出来ました。
2008年から2009年にかけて周囲に数件の家が建築され専用の屋外試験場が消滅しました。
今後は昼間はBDチェッカー、日没時は自宅屋上での感度測定となりました。
注)
ここで提供される情報は独自に調査/研究した結果によるものです。
情報を商業利用される場合は第3者の権利を犯さないようご注意願います。
リンクについて
自由にリンクしていただいてかまいませんが、その旨ご一報いただけるとありがたいです。
バットディテクター販売のご案内
”かっちゃんの・電子工作室”では製作したバットディテクターをコウモリの研究や調査を専門にして見える方々にモニターをお願いしてきました。
その中から選んだ機種を2005年春より販売しております。
おかげさまで全国からご注文をいただきました。
ご購入していただきました方にはあつくお礼を申し上げます。
詳しいことは当サイトのバットディテクター販売のページにございます。
6シーズン目を迎え今後も新機種(2009年モデル)の企画中です。
バットディテクターのみでなく、コウモリ探索に役立つツール(*)の開発も続けております。
是非とも、時々のご来訪をお待ち申し上げます。
注)
* BDチェッカー、デジタル周波数表示BD 他。
お問い合わせは | 【連絡先 E-mail】 |